介護業界の淘汰と再編が加速する──コロナ後に求められる新たな経営戦略

倒産・休廃業の急増、その背景にある業界構造の問題

024年、介護事業者の倒産・休廃業が過去最多を記録した。その要因として、新型コロナウイルスによる短期的な影響だけでなく、業界構造そのものの問題が顕在化した結果だと考えられる。

「訪問介護事業の倒産・休廃業が特に目立つのは、利益率の低さと業界内の競争過多が原因」と、業界関係者は指摘する。訪問介護は特に、小規模事業者が多く、介護報酬改定の影響を受けやすい。また、感染症の流行時には、対面サービスの減少や感染リスク管理のコスト増加が直撃し、収益悪化を引き起こした。

さらに、社会全体の高齢化が進む中で、介護業界は人手不足にも直面している。介護職員の確保が困難な状況が続き、多くの事業者が人材を確保できずに事業継続を断念している現状がある。

コロナ後の経営環境変化──補助金依存からの脱却が鍵

2020年から2022年にかけて、多くの介護事業者は政府のゼロゼロ融資や補助金に支えられてきた。しかし、2023年以降、補助金が打ち切られたことで「本来、採算が取れていなかった事業者」が一気に経営難に陥った。

特に、人件費の増加と介護報酬の引き下げがダブルパンチとなり、小規模事業者にとっては経営を続けるのが困難になっている。経営基盤の弱い事業者は撤退し、資本力のある事業者が市場を席巻する流れが加速している。

また、介護職員の待遇改善が進まないことも、事業者の存続を危うくする要因となっている。人件費の抑制が続く中で、他業種との賃金格差が拡大し、介護職を志望する人材が減少している。このままでは、今後さらに人手不足が深刻化し、サービス提供が難しくなる恐れがある。

介護事業の「ビジネスモデル転換」が不可避

このような状況下で、介護事業者が生き残るためには、単なるコスト削減ではなく、根本的なビジネスモデルの転換が求められる。

1.「訪問介護単体」から「総合ケアサービス」へ

訪問介護事業者単体では収益化が難しいため、デイサービス、看護、リハビリなどを組み合わせた「複合型サービス」への転換が必要になる。

例えば、訪問介護をメインとする事業者が、自社でリハビリ特化型デイサービスを併設することで、利用者を囲い込み、収益安定化を図る戦略が注目されている。通所サービスとの併用により、訪問介護の負担を分散させ、継続的な利用者確保につなげることができる。

2.IT活用による業務効率化

介護業務の効率化が急務となる中で、記録のデジタル化、AIを活用したスケジュール最適化、ロボットの導入などが不可欠。

例えば、一部の訪問介護事業者では、自動音声入力や遠隔相談システムを導入することで、職員の業務負担を削減しながら、サービス提供時間を増やす工夫をしている。介護記録をアプリで簡単に入力・共有できる仕組みを導入し、スタッフ間の情報共有をスムーズにする事業者も増えている。

また、介護ロボットの活用も一部で進められており、特に夜間の見守り業務や移乗支援において効果を発揮している。これらの技術を活用することで、限られた人材でより多くの利用者を支援できる可能性がある。

3.フランチャイズ・業務提携による生き残り

小規模事業者が単独で経営することが難しくなる中、大手法人のフランチャイズモデルに参加することで、安定した集客と経営基盤を得るという戦略も現実的な選択肢になりつつある。

介護業界では、事業者間の提携や業務効率化を目的としたネットワークの形成が進んでおり、単独経営からの脱却がトレンドになっている。例えば、訪問介護と訪問看護の事業者が連携し、サービスの一体提供を図ることで、利用者の利便性を高めつつ、経営の安定化を図る事例もある。

4.人材確保戦略の見直し

介護業界の人手不足を解決するには、労働環境の改善とともに、新たな人材確保の方法を模索する必要がある。特に、未経験者向けの研修制度の拡充や、異業種からの転職を促進する施策が有効だ。

また、外国人労働者の活用も一つの解決策となり得る。技能実習制度や特定技能制度を活用し、安定した労働力を確保することで、人材不足の解消につなげることが期待される。しかし、言語の壁や文化の違いを考慮し、適切なサポート体制を整えることが重要となる。

業界再編の波を乗り越えるために

介護業界は今、大きな変革の時を迎えている。旧来のやり方に固執するのではなく、時代の変化に適応し、持続可能な事業モデルを構築することが、業界の未来を左右する鍵となる。

生き残るためには、事業者が戦略的に動き、新しい技術を活用しながら、サービスの質を向上させることが求められる。地域社会との連携や職員の待遇改善を通じて、安定したサービス提供体制を築くことが、業界の未来にとって不可欠となるだろう。