訪問看護の開業から廃業までに発生する課題

訪問看護は、介護保険法や健康保険法を基盤とし、主に診療報酬や介護報酬を収益源とする重要な医療・介護サービスです。近年、高齢化社会の進展に伴い、その需要が高まりつつあります。この需要増に応じて、訪問看護ステーションの開業数も右肩上がりで増加しており、特に営利法人の参入が顕著です。

厚生労働省の調査によると、訪問看護ステーションの事業所数は2020年から2021年の間に1,161事業所、つまり9.4%の増加を記録しました。これは訪問看護の需要の高まりを如実に反映したものといえるでしょう。

訪問看護の事業体系

訪問看護事業は、以下の2つの事業体系に大別されます:


1.病院・診療所による訪問看護(みなし指定)

  • 病院や診療所が介護保険法の指定を受けて提供する訪問看護。
  • 療養病床の有無や診療科目によりサービスの内容が異なります。


2.訪問看護ステーション

  • 独立した施設・事業所として、介護保険の指定を受けて開業する形態。
  • 健康保険と介護保険の両方に基づくサービス提供が可能。

両者の違いは設備基準や人員基準、利用者の対象範囲などにありますが、どちらの形態でも地域医療を支える役割が求められています。

高齢化と訪問看護の需要

日本は急速に高齢化が進行しており、2025年には65歳以上の高齢者人口が全人口の30%に達する見込みです。このような社会背景から、訪問看護の需要は依然として高水準を維持しており、特に在宅ケアの分野での需要が高まっています。しかしながら、一部地域では需要に対して十分なサービスが行き届いていない現状があり、訪問看護師の数も不足しています。

廃業率とその背景

訪問看護ステーションの廃業率は、他業種と比較してもやや高いとされています。2021年には1,806件の新規開業がある一方で、490件が廃止、242件が休止状態となっており、新規開業数の約4割が閉鎖または休止に追い込まれています。これらの背景には、運営資金の不足や人材不足が大きく影響していると考えられます。


1.開業計画の不備

  • 予算の策定や競合分析が不十分であると、経営が軌道に乗らない。
  • 需要の高い地域を見極めることやリスク評価が必要です。


2.スタッフ不足

  • 訪問看護ステーションの開業には「常勤換算で看護職員2.5名以上」の基準が必要。
  • スタッフの採用や育成が計画的に行われないと、運営に支障をきたします。


3.利用者数の確保の難しさ

  • サービスの認知度不足や競合他社の存在により、利用者を確保できないことがあります。


4.資金繰りの問題

  • 開業後すぐに収益を上げられない場合、運転資金が枯渇し廃業に至るリスクがあります。


5.法律や規制の不遵守

  • 人員基準や設備基準を満たさずに運営を行うと、行政指導や登録取消の対象となる可能性があります。


6.採用課題

  • 訪問看護ステーションの人材確保は、給与条件や職場環境、採用活動の工夫が大きな課題。
  • 特に看護師は売り手市場であり、労働条件が整わない職場は人材流出が懸念されます。

廃業率とその背景

訪問看護ステーションの廃業率は、他業種と比較してもやや高いとされています。2021年には1,806件の新規開業がある一方で、490件が廃止、242件が休止状態となっており、新規開業数の約4割が閉鎖または休止に追い込まれています。これらの背景には、運営資金の不足や人材不足が大きく影響していると考えられます。

開業成功のための対策

訪問看護ステーションを安定的に運営し、失敗を防ぐためには以下のような取り組みが重要です。


1.地域医療機関との連携

  • 地域の病院や診療所、介護関連事業所との協力関係を築くことで、利用者の紹介を受けやすくなります。


2.魅力的な職場環境の整備

  • 看護職員が長期間勤務したいと感じるような労働条件や福利厚生の提供。
  • 労働時間の適正化や成長の機会を設けることが重要です。


3.適切な資金管理

  • 開業資金を十分に確保し、不測の事態にも対応できる財務計画を策定。
  • 補助金や助成金の活用も検討。


4.情報収集と改善

  • 医療や介護分野の最新情報を把握し、経営戦略に反映させる。
  • スタッフや利用者からのフィードバックを活かしたサービス改善。


5.採用戦略の強化

  • 求人の多様化やSNSなどを活用した採用活動を行う。
  • 福利厚生や研修制度を整備し、求職者に魅力を伝える。


6.専門家のサポートを活用

  • 開業準備や法的手続き、資金調達について、訪問看護事業に精通した専門家のアドバイスを受ける。

まとめ

訪問看護ステーションの開業には、多くの需要が見込まれる一方で、経営の難しさも伴います。廃業率の高さが示す通り、適切な準備と運営体制がなければ成功を収めるのは容易ではありません。しかし、地域との連携を深め、優秀なスタッフを確保し、利用者に求められるサービスを提供することで、事業の安定と成長は十分に可能です。

これから訪問看護ステーションを開業しようと考える方や既存の運営者にとって、事業成功のためのヒントとなる情報が本記事を通じて得られることを願っています。